学部学科トピックス
【新コース講義紹介】「宇宙食概論」
片山 直美 教授
2026年4月に新コースが誕生します。本学の教員が、どのような講義を行い、研究者としてどのような研究をしているのかインタビューした「研究紹介」シリーズ。今回は片山直美教授です。
健康科学部 健康栄養学科 フードサイエンスコース 片山 直美 教授
◆講義名
宇宙食概論
◆研究テーマ
長期宇宙滞在を念頭に
今後必要とされる微小重力ならびに
無重力空間における生理機能の変化にあわせた
求められる食環境と食事内容に関する研究

【動画】
Q 講義内容について教えてください
まず初めに、宇宙空間(微小重力並びに無重力)におけるヒトの「生理学的変化」を理解して、その問題点を解決するために現在行われてる様々な取り組み(JAXA, NASA, ESAなど)を学ぶ予定です。
次に現在までの宇宙食の歴史(アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、日本、アジアの取り組みなど)について、HACCP(*ハサップ:食品製造における国際的な衛生管理方法のこと)や加工技術、保存技術、調理技術について学びます。
さらにアレルギー、宗教、各種禁忌について学び、全世界の宇宙飛行士並びに人々が問題なく食べることができる食材料について学びます。
以上の学びから、今後可能性のある「新たな宇宙食の提案」について提案を行う予定です。
実際に考案した「宇宙食」を調理・試食し、改善のうえ、最終講義日に発表、並びに国際宇宙学会(COSPAR)で発表を行うためにポスターを作成します(2年に一度の発表となるため、まとめて2年分を発表します)。
Q その研究を始めたきっかけを教えてください
宇宙開発は全世界が行っている今後益々重要となる研究分野です。
ライフサポートシステムの一つである「宇宙食」はただ単に「栄養補給」ではなく、「宇宙飛行士同士のコミュニケーションツール」であり、「互いの文化や歴史を理解するために役立つ友好品」でもあります。
宇宙船という閉鎖空間(今後は月基地、火星移住、恒星間飛行等もっと厳しい長期にわたる閉鎖空間での生活を想定)において、日々の生活を限られた同じメンバーと過ごす中で、「ほっとする」うるおいとバラエティーのある「食事」と「その時間」は大変重要です。
「肉体的」のみならず「精神的」に健全な状態でなければ、分刻みに行わなければならない「宇宙での業務」を正確に行うことができません。
そこで「栄養:骨ならびに骨格筋の維持、高血圧防止、高血糖防止、免疫力増強、腸内環境整備等」「運動:抗重力筋強化」「休養:睡眠」が強く求められています。
私は、1988年から1990年にかけて「アメリカ・カリフォルニア大学デービス校で2年間コンカレント学生として学んだ栄養学の授業」がきっかけで、日本に帰国後、宇宙空間で起こる生理学的変化と栄養の重要性について研究したいと思いました。
Q その研究が社会にどう貢献されているのか、また人々の生活にどうつながるのかを教えてください
既に宇宙開発によってもたらされた様々な研究成果が地上において役立っています。
宇宙における微生物管理の考え方から生まれた「HACCP」の考え方は「大量調理施設衛生管理マニュアル」に活かされて、病院・福祉施設・給食施設・事業者など「安全で安心な食事提供」のための指針となっています。
また、各種食品の長期間常温保存を可能にした宇宙開発におけるラミネート加工などは、現在「災害食」に応用されて「5年保存」「7年保存」「25年保存」などを可能にし、津波、地震などの大規模自然災害時の食料供給に役立っています。もちろん「キャンプ」や「登山」などの携帯食としても大変役立っています。
さらに「海外に向けた支援物資」としても「常温で長期保存できる食事」は大変役立ち、多くの国の方々を助けるライフサポートシステムとして機能しています。
今後、「栄養バランスの良い」「宗教」「文化」「アレルギー」などにも対応した「医食同源の立場に立った宇宙食の開発」は、「薬に頼らず、日々の食事でよりよい健康維持増進を図る」ことができる「食べる薬」としての食事を地上にも提供することができる研究です。



◆高校生へメッセージをお願いします
「こんな食事を宇宙で食べてみたい」「宇宙だけではなく地球のことを考えて、今後のために食事で人々を健康に、笑顔に、幸せにしたい」という皆さんの思いを込めた医食同源の食事のアイデアを是非、一緒に考えてみませんか?
今すぐには難しくても、「こんな食材料を使いたい」「こんな味が食べてみたい」など、今の素直な気持ちと夢を一緒に「形:食事」にしてみませんか?
そして「日本から発信する宇宙食の提案」を国際宇宙学会(COSPAR)でポスターで発表してみませんか?
「宇宙食と栄養(Space food and Nutrition )」のセッションで発表ができます。もちろん頑張って英語で口頭発表を行うこともできます。頑張った成果を世界の研究者の皆様へお知らせしてみませんか?
きっと新しい道(留学や共同研究など)が開けます。熱い情熱とひたむきな志があれば「道」はきっと開かれます。
一緒に「宇宙食」の研究を行いませんか?待っています。ぜひいらして下さい。
プロフィール
健康科学部 健康栄養学科 フードサイエンスコース 片山 直美 教授
北見工業大学工学部環境工学科卒(工学学士)(排煙脱硫研究)、東京工業大学工学部研究生修了(下水活性汚泥の農地直接還元研究)、
栗田工業総合研究所バイオグループバイオサイドチーム入社(コンポスト研究)、東京女子医科大学医学部内分泌内科研究助手(成長ホルモン研究)、
アメリカ カリフォルニア大学デービス校コンカレント学生2年間修了(栄養学、遺伝学、生化学など)、日榮調理専門学校卒業(調理師)、
名古屋市栄養専門学校卒業(栄養士)、日本製菓学校卒業(製菓衛生士)、岐阜大学大学院農学研究科修了(修士(農学))、
名古屋大学医学部大学院医学系研究科修了(博士(医学))、名古屋商科大学修士課程修了(MBA取得)、名古屋大学医学部環境医学研究所宇宙医学実験センター非常勤講師、椙山女学園大学文学部非常勤講師、名城大学農学部非常勤講師、桜花学園大学非常勤講師、名古屋大学医学部耳鼻咽喉科非常勤講師、
名古屋女子大学家政学部食物栄養学科講師、准教授、教授となり、現在名古屋葵大学 健康科学部 健康栄養学科教授、名古屋葵大学 大学院生活学研究科 研究科長(宇宙食・味覚・嗅覚研究)。